膵がんは診断が難しく、多くの場合、発見時にはすでに進行しており手術ができないことが多いです。このため、膵がんはがん死亡原因の第4位に位置しています。手術が可能な段階で発見された場合でも、その後に転移することが多く、相対5年生存率はわずか9.8%と非常に予後が悪いです。
膵がんが発見される時点で、約半数が最も進行したStage IVであり、早期発見が難しいことがこの低い生存率の一因です。早期の膵がんは無症状で、腫瘍マーカーの上昇も見られないことが多く、CTや腹部エコーでも検出が難しいことがあります。基幹病院でも早期診断された膵がんの治療例は非常に少なく、私の勤務していた病院でも年間でStage 0やStage IAの膵がんの切除例は1~2例程度です。
しかし、膵がんの予後を改善するためには、早期診断が不可欠です。先人たちの努力により、Stage 0やStage IAの診断比率は20%近くに達しています。早期診断ができれば、Stage 0での10年生存率は94.7%、Stage IAでは93.8%と非常に高くなります。欧米の報告でも、腫瘍径が生存率に大きく影響することが示されています。つまり、小さいうちに膵がんを発見できれば、予後が大きく改善するのです。
膵がんの早期発見のためには、腫瘍径が10mm以下の段階で見つけて治療することが重要です。膵がんの自覚症状としては、腹痛、背部痛、黄疸、全身倦怠感、体重減少などがあり、これらの症状がある場合や腫瘍マーカー(CA19-9)や膵酵素(アミラーゼ)の異常が見られた場合だけでなく、次項に示すようなリスクのある方は精密検査を受けることが必要です。
私は大阪北部の基幹病院と医師会と協力し、2014年から早期膵がん発見の都市型プロジェクトを開始しました。北野病院、済生会中津、市立総合医療センター、淀川キリスト教病院を中心に、各地域の医師会と連携し、膵がんの知識普及や定期的な勉強会を開催しておりました。エコーでの膵管拡張や小さな膵嚢胞が見つかった場合には、基幹病院での精密検査を実施し、クリニックの先生方と連携して経過観察を行うシステムを構築しました。このプロジェクトの成果として、早期発見された膵がん患者数が増加し、手術可能な患者も倍増しました。
膵がんの早期発見と予防のために、少しでも気になる症状がある場合はお気軽にご相談ください。早期診断と適切な治療が膵がんの予後を大きく改善します。
早期に膵臓がんを発見するためには、膵癌のリスクのある集団を積極的に精査・フォローする必要があります。
2006年に「膵癌診療ガイドライン」で初めて膵癌の危険因子が記載されました。
因子 | リスクレベル | |
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家族歴 (第一度近親者:親・子・兄弟) |
膵癌が1人 | 4.5倍 |
膵癌が2人の場合 | 6.4倍 | |
膵癌が3人以上の場合 | 32.0倍 | |
50歳未満の膵癌患者がいる場合 | 9.31倍 | |
遺伝性 | 遺伝性膵癌症候群 | 6.79倍 |
生活習慣など | 喫煙 | 1.68倍 |
大量飲酒(エタノール37.5g/day以上) | 1.22倍 | |
肥満(20代男性でBMI30以上) | 3.5倍 | |
糖尿病 | 1.94倍 | |
膵疾患・膵画像所見 | 慢性膵炎 | 13.3倍 |
IPMN | 16.7倍 | |
膵嚢胞 | 3倍 | |
膵嚢拡張 | 6.4倍 |
米国では膵がん高リスク群に対して積極的にサーベイランスを実施することにより年率1.6%で膵癌
あるいはhigh grade dysplasia(いわゆる粘膜内癌)を発見して、膵癌の90%が切除可能であったと報告されています。
つまり、膵がんの高リスク群を継続的にフォローし続けることで、早期膵臓がんを発見し、その予後を改善することができるのです。
では、具体的にはどのような所見や症状がある場合が膵がん高リスク群なのでしょうか。
Low-grade riskが3ポイント以上ある場合やHigh-grade riskが1ポイント以上ある場合には膵がん高リスク群と考え、膵がん精査を勧め、今後のフォローに努める必要があります。
ただ、一般的にわかりにくいと思いますので、下記に該当する方は膵がんのリスク因子があると判断し、無症状でも検査をうけることをお勧めします。
膵腫瘍が疑われる場合、腹部エコー、CT、MRI検査が必須ですが、必ずしも膵がんを発見できるわけではありません。造影剤を使用しないエコーやCTでは2cm以下の腫瘍の感度は約50%です。MRI(MRCP)では感度が70~90%となりますが、超音波内視鏡(EUS)は86~100%と最も高精度の検査です。
EUSは他の画像検査で見逃しがちな1cm以下の小さな膵腫瘍を発見することができます。また、腫瘍として認識できないごく小さな膵がんによる膵管の狭窄·拡張や膵の萎縮も確認でき、膵がんの兆候を見落としません。EUSは検査者の知識と経験によって診断能にばらつきがあるため、習熟した施設で行うことが望まれます。私は、これまでに3000例以上のEUS検査と500件以上の関連治療を行っており、質の高い検査を提供しています。
また、膵嚢胞を持つ人は膵がんになるリスクが一般人口の22.5倍高いとされています。そのため、膵嚢胞がある患者さんには、6ヶ月ごとの画像検査が推奨されます。当院では、EUSとCT、MRIなどの画像検査、血液検査を組み合わせて定期的な経過観察を行い、早期発見を目指しています。
膵がんの早期発見のためには、信頼できる検査施設で定期的に検査を受けることが重要です。当院では、専門知識と経験を持つ医師が最新の検査機器を使用し、早期診断と治療を提供しています。膵がん高リスク群や膵がんを疑われる場合、膵嚢胞がある方は、ぜひ一度ご相談ください。
超音波内視鏡は、内視鏡の先端から超音波を発することができ、口から挿入して胃や十二指腸から膵臓や胆管、胆のうを詳細に観察する検査です。腹部エコーに比べて格段に詳細な観察が可能です。特に膵鈎部(CT・MRIでも見落とされがちな部位です)・膵尾部といった膵臓の端や胆のう管まで確認できますが、胃の手術を受けた方や内臓脂肪が多い方は観察が不十分になることもあります。また、通常の胃カメラとは異なり、食道、胃、十二指腸の観察はできませんが、胃の粘膜下腫瘍など、胃カメラでは評価が難しい腫瘍の精密な評価にも有効です。偶発症として、消化管出血、穿孔などをまれに起こすことがありますが、そのような場合は入院や緊急の処置·手術が必要になることがあります。なお、これら検査に伴う偶発症の発生頻度は全国集計(2008年から2012年の5年間)では、胆道·膵臓EUSで0.042%とされています。
口からの場合 |
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鼻からの場合 |
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口からの場合 | マウスピースを軽くくわえ、点滴から眠たくなるお薬(麻酔)を投与します。 |
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鼻からの場合 | 患者さま用モニターを見ながら、検査を受けることができます。 |
経口からだけです。通常の胃カメラの1.5倍の太さがあるため経口からとなります。
①膵臓、胆管、胆のうに何らかの病気が疑われる人です。具体的には、健康診断や人間ドックの採血検査で、膵臓や肝機能の検査値・腫瘍マーカーが高い場合、お腹の超音波検査で胆のうポリープや膵のう胞などが見つかった場合に検査をします。②胃、食道に粘膜下腫瘍が見つかった人も対象です。
膵臓や胆管、胆のう、お腹の中の腫瘍を調べる方法は、EUSの他に、造影剤を使ったCT検査、MRI/MRCP検査、内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)があります。しかし、精度としてEUSの代わりとなる検査は現在ありません。
可能です。しかし保険診療上のルールでは「健診」と区別して症状がなければ検査はできません。
当院では以下のルールに則ります。
(1) 医師が同日検査を行う必要があると判断した症状の場合
例)黒色便·下血がある、腫瘍マーカーの高度上昇、高度な貧血の進行など原因検索を急ぐ場合。
(2) 内視鏡ドック(自費)の方。
経口で行う胃カメラと全く同様の準備で問題ありません。
検査の時間は10~20分程度です。麻酔を使用するため検査後に1時間ほどの安静時間があります。安全に歩行などが可能であることを確認してからの帰宅になります。
麻酔を使用し、眠っている間に検査は終わるので苦痛はほとんどありません。麻酔が効きにくい方は、多少痛みがあることもあります。また、通常の胃カメラよりも少しだけ太いカメラを使用すること、検査時間が少し長いことから、検査後の数日間は喉に違和感が残る場合があります。超音波内視鏡の際は鎮静剤を使用しますので、車・自転車の運転はできません。
超音波内視鏡検査の結果は当時にご説明させていただきます。ただし、麻酔を使いますのでしっかりと目が覚めてからの説明となります。
超音波内視鏡の際は鎮静剤を使用しますので、車·自転車の運転はできません。
超音波内視鏡の場合、鎮静剤を用いるので、お休みしていただくことをお勧めします。しかし、早朝に行う場合には午後からの仕事は可能な場合があります
超音波内視鏡の場合は可能です。
当院では、初診の方でもWeb予約と電話予約が可能です。できるだけお待ちいただく時間を少なくすることや混雑による感染予防対策のため、受診の際はWEB予約をお勧めしております。
発熱のある方は待合がかわりますので、事前に電話でのご連絡をお願いいたします。